2008年06月30日
信州牛の経歴4
長年、牛肉の商いに携わっていると、忘れられない一頭(牛のことです)が存在します。
私の場合は、父が私の後学の為に買ってくれた長野県のチャンピオン牛がその一頭にあたります。
よく肥育されて、全身が霜降り状態になった肉を昔は「特選」と呼びましたが、現在は「A-5」という規格名に統一されています。
そんな高品質な牛肉のことを、プロは尊敬の念をこめて「トビ」と呼びます。
父は息子に牛肉のピンからキリまで教えるために、不採算を承知の上で「トビ」を買い与え、「好きなように精肉しなさい」と命じました。
「トビ」の語源は忘れてしまいましたが、私にとって初めての特選肉は感動ものです。より丁寧な精肉を心がけ、大切に使ったものです。
しかし、桁外れの高額な肉なので、売れば売るほど赤字です。何とか儲からなくても損失を出さないようにするには、必然的にコストに目覚めるを得ませんでした。
父の商いの教育方法は少々乱暴でしたが、商売の実戦で覚えた知識はその後、当店の仕入れの基本となっていきます。
また、その一頭の全部位を試食したことが、私の牛肉に対する味覚を鍛え上げ、お客様に自信を持って提供できる「牛肉の目利き」に育ててくれました。